どのように解決していくか、
Goalsが描くロードマップとは
CEO 佐崎 傑

代表取締役社長(CEO兼CTO)
需要予測の精度は上げられたのに、在庫が合わない。Goalsは、飲食店の現場で大きな壁にぶつかりました。これを機に、社員とともに営業終了後の店舗へ通い始めます。今回は、その経験から生まれたHANZOの強みと、外食から食品産業全体へサービスを広げていく構想について話を聞きました。
需要予測の精度は上がったのに「全くもってダメだった」。一体何が起きていたのでしょうか。
佐崎
開発に着手してから、需要予測は最初の1年ほどで固めました。コロナ禍も開発の手を止めず、意気揚々と現場で動かしてみたら、何も合わない。予測ではなく、その裏側の在庫の計算がまったく合っていませんでした。つまり、システムによって「明日の売上はいくらになるか」が分かるだけでは、飲食店の支援として「足りなかった」んです。
前回の記事でも触れましたが、外食では、「明日カレーが100杯売れる」と予測値が分かっても、カレーという完成品を仕入れるわけではありません。にんじんや肉などの材料を管理しなければいけない。100杯分ならにんじんが何本、肉が何キロいるのか。そこから今ある在庫を差し引いて、どれだけ発注すればいいのか。その計算が難しかったんです。
その状況を受けて、どのように改善していったのですか。
佐崎
現地に行って、自分たちの目で状況を確かめようと話し合いました。契約いただいているお客様の店舗に、社員7〜8人で伺い、営業が終了した後に実際の在庫を数えに行きました。
使用している食材の一覧表を作って印刷し、食材を一つずつ確認しようとしました。ところが、家庭ではなかなか使わないような専門的な食材が多いお店で、私たちには、どれがどの食材なのかも分からなかったんです。「これがエメンタールチーズですか?」と聞くと、「それはグラナ・パダーノです」と返される。実物を前に、食材名をお客様に教えていただくところからのスタートでした。食材をスマホで1枚ずつ撮影し、その日に残っている量をスケールで量って、グラム単位で記録する。この作業を一定期間、地道に継続していきました。おかげで私のスマホのアルバムには、無数の食材写真が今も残っています。
その後、実際に数えた在庫と、計算上の在庫を見比べながら、「このモデルが間違っている」「ロジックをこう変えなければいけない」と、修正を重ねていきました。理論どおりにやればうまくいくと思っていたのですが、現実にはまったく思うようにいきませんでした。現在もより高い精度、店舗の皆さまの負担を減らすための改善を続けています。

なぜ、理論どおりにいかなかったのでしょうか。
佐崎
製造業に関わる仕事をしていたので、材料の確認・点検や品質管理の方法は理解していました。ただ、見落としていたのは、外食の場合、工場ではなく店舗で調理しているという点です。
以前にも触れましたが、製造業では、販売店で製品を組み立てることはありません。大きな工場に人が集まり、製造、品質管理、生産管理をそれぞれの担当者が分担しています。ところが外食は、大手チェーンでも調理の多くは店舗で行われます。ほかの産業に比べて、仕組みを導入するのが難しい理由はそこにあります。だから私たちは、現場のオペレーションの実態に合わせて、AIが学習していく仕組みを研究してきました。現場に工場と同じやり方を求めるのではなく、仕組みのほうを現場に合わせる。それがHANZOの設計の出発点になっています。
例えば、「この玉ねぎは少なめに使う傾向がある」「このにんじんは多めに使う傾向がある」というように、人の手で調理するからこそ生まれるブレをAIで補正し、今の在庫がどれだけ残っているかを計算します。ここがHANZOの強みです。今の在庫が正しく分かれば、発注や仕込みの判断が変わります。その積み重ねが、廃棄ロスの削減につながると考えています。お客様の現場で試して、学んで、直す。このような繰り返しを開発着手から3年ほど行い、少しずつ今の形を作ってきました。
前例のないモデルなので、すべてが手探りです。聞いた話によると、iPS細胞の研究者は、使えるパターンに出会うまでひたすら実験を続けるので、見通しが立たず、事業計画を書くことが難しいそうです。私たちも、近いところがあると感じています。いつ完成するかを示した事業計画を書くのは、非常に難しいことです。しかし新しい挑戦をするというのは、たぶんそういうことなんだと思います。Goalsは、最先端のAI技術と、飲食店を「自分たちの目で見る」という、泥臭い現場主義を融合させることで、未完の領域を開拓しようと奮闘しています。
2026年現在、HANZOのサービスはどのような広がりを見せていますか?
佐崎
現在、HANZOは「自動発注」「発注AIアシスト」「原価分析」「人件費」と大きく4つのサービスを展開していますが、基礎研究をベースに、サービス開発と改善に取り組んできた結果、多くの飲食店に導入いただいております。業態も規模感も様々ですが、サービス導入による成果もしっかりと現れてきました。具体的には「HANZO 自動発注」を導入したことで在庫半減と現場負担の軽減といった大きな改善が見られたという声もいただいています。
詳細は導入事例ページをご覧ください。

ここから先は、どのような構想を描いているのでしょうか。
佐崎
食品サプライチェーンの究極の形は、需要に連動して、消費者が欲しい分だけ作ることだと思います。私たちが開発する需要予測データを、食品産業全体に普及させることができれば、メーカーが無駄なく作り、流通が無駄なく運べる。このサイクルを実現することが、私たちの次のステージです。この考えは、創業間もない頃、いろいろな業界でプロトタイプを作っているなかで固まりました。
食品産業には、三巨頭と言われる外食、スーパー、コンビニという3つの大業態があります。実は、どの業態も、その後ろにいるプレーヤーは、概ね共通しているんです。漁業や農業、畜産の生産者も、卸売市場も、大手メーカーも、物流も。今取り組んでいる外食業界でサービスが浸透すれば、隣にいる小売へ、さらに卸、メーカーへと川上へと上りながら、サービスを大きく広げていけると思います。外食の需要予測が小売や卸でも応用され、メーカーの生産計画にも寄与し、物流の最適化に連鎖していく。最終的には、食品サプライチェーン全体を横断し、GDP1%相当の経済効果を実現したいと考えています。
営業終了後の飲食店で余った食材を量り続けたアナログな経験が、AIで補正する在庫計算の土台になっています。現場で確かめることから始めたGoalsは、その先に、食品産業のサプライチェーン全体を自社サービスでつなぐ構想を描いています。ロードマップは見えてきました。それを実現するには人の力が必要です。最終話となる次回は、組織の在り方とこれからについて、共同代表の2人に話を聞きます。