なぜ食品産業か。論理と感情で選んだ道と、
現場で知った大きな壁。
CEO 佐崎 傑

代表取締役社長(CEO兼CTO)
3つの原体験に導かれ、大きな目標を掲げて2018年に創業した佐崎。しかし現在のサービスにたどり着くには、紆余曲折がありました。精度90%の需要予測はできた。それでも「全くもってダメだった」。Goalsが現場で壁にぶつかるまでの話を聞きました。
創業時に決めた3つの条件をもとに、どのように事業を作っていったのでしょうか?(詳細は前記事をお読みください)
佐崎
現在、Goalsでは「食品産業の、ロスをなくす。」をミッションに掲げ、テクノロジーの力でその実現に挑んでいます。しかし、創業当初からここにフォーカスできたわけではありませんでした。創業条件を念頭に置きつつも、どう事業化すべきかには迷いがありました。
創業時はメンバーは3人。報酬も十分に出せないなか、私の自宅でひっそりと始めました。まずはHRや小売、製造など、業界を特定せずにプロトタイプをたくさん作っては、企業の役員にプレゼンをしに行き、反応を見る。そんなことを1年ほど愚直に続けました。
プロトタイプを持ち込んだ先には、大手食品メーカーや食品卸、食品小売もありました。初期検証の際に話を伺うなかで耳にしたのが、「廃棄せざるを得ないものが多い」という現実です。
創業時に決めた3つの条件
①日本社会に貢献できる事業しかやらない
②最大限のインパクトを目指し、大きな市場を選択する
③未解決問題に、先端テクノロジーで挑む
そのお話を聞いて、食品産業に目を向けたのですか?
佐崎
それだけではないですが、後押しにはなりました。以前のインタビューでも触れましたが、祖父が食品メーカーを創業していたこともあり、食品産業の非効率性は私にとって割と身近な問題でした。
政府が公表したデータによると、創業当時の2018年度の日本における食品ロスの総計は約600万トン。そのうち事業系食品ロスが324万トン※1。これは大手企業でも解決が難しく、まだまだ現代においても「多くを捨てている」状況に変わりはありません。
食品ロスが生まれる根本には、構造的な問題があると考えています。どれだけ売れるのかが正確にはわからない。だから、メーカーも卸も小売も、欠品しないように少し多めに作り、少し多めに仕入れる。その「少し多め」が、サプライチェーンの各段階で積み重なっていくんです。
さらに、農業・食料関連産業のGDPは約10%※2と言われます。やるからにはGDPを1%引き上げたいと考える私にとって、挑戦意欲を掻き立てられるものでした。祖父の事業という原体験と、市場の大きさや課題の深さ。論理だけでもなく、感情だけでもない。その両方で選んだのが、食品産業でした。

食品産業の中でも、なぜ外食を選んだのですか?
佐崎
食品産業はあまりに巨大で、スタートアップが一度にすべてを解決するのは現実的ではありません。そこでどこから始めるべきかを考えました。
食品サプライチェーンの出口、つまり食品が消費者に届く場所は、主にスーパー、コンビニ、外食の3つです。それぞれ特徴が大きく違います。スーパーやコンビニは大企業が業界の多くを占めています。一方で外食は、さまざまな規模の企業が数多くあり、業態も多様です。1社ごとに大きなシステムを投資するのは簡単ではなく、データを活用する仕組みが業界全体で広がりにくい構造がありました。
業務の面でも違いがあります。スーパーやコンビニが扱うのは、メーカーが作った完成品が中心で、店舗で調理する割合は大きくありません。一方で外食は、店舗で調理しています。売る場所でもあり作る場所でもあるんです。
そこで「外食には大きな課題があるはずだ」という仮説を立て、実際に外食企業の経営者の方々にお話を伺うと、廃棄や品切れ、原価のムダなど、仮説どおりさまざまなロスに悩んでいることがわかりました。
このような背景から、最も課題が大きいと感じた外食から挑戦することに決めたんです。
店舗で調理する工程が入ると、なぜロスの管理が難しくなるのでしょうか?
佐崎
工場で大量生産する製造業と違い、外食は店舗ごとに調理するため仕組み化が難しく、データを用いた支援が届きにくい領域でした。その難しさの根底にあるのが、店舗のオペレーションの複雑さです。例えば飲食店で食事をした際に、「今日はいつもより少し多いな」とか、「ちょっと少なめだな」と、感じたことはありませんか。人の手で作る料理は、量や出来栄えを毎回ピッタリ揃えるのがとても難しいものです。この飲食店の厨房で起こる事象は、製造現場と比較するとよくわかります。
例えば、自動車工場であれば、自動車を売っているディーラーやショールームで車体を組み立てません。エンジン、タイヤ、ボディなど、部品ごとに専門の職人が作って組み立てます。品質管理や生産管理にもそれぞれ担当者がいて、工程ごとに分業が徹底されています。では、飲食店ではどうでしょう。大きく異なる点は、売っている場所(=飲食店)で組み立てている(=調理する)ことです。料理を待つ来店客がいるので、時間の制約もあります。仕込みから調理、盛り付けまで、工程ごとに管理の担当者を置くことも難しく、スタッフが何役もこなしながら店を回しています。この状況で、ロスやミスを出さずに、毎回同じ品質の料理を提供し続けることは極めて難しいことが、他の業界と比較するとよくわかります。
外食文化が花開いたのは江戸時代と言われます。その頃から、調理を店で人の手が担うという点は、今も大きく変わっていないと感じています。しかし、デジタル化が加速・浸透し、AIがここまで進化した今なら、本気で取り組めば大きな変革が起こせるかもしれないと予感しました。

外食から始めると決めて、プロダクト開発は何から手をつけたのですか?
佐崎
食品産業のロスをなくすという命題のもと、Goalsとして初のプロダクトを何にするか検討段階に入ると、3つの選択肢に絞られました。①自動発注、②人件費/シフト管理、③原価管理。3択で社内決議をとったところ、全員が「自動発注」を選択。この分野は、プロトタイプを作り各社を回っていた際に、多くの企業から良い反応が得られていたため、ニーズがあることはわかっていたので、改めて自動発注システムの開発に力を注ぐことに決めました。
約1年かけ、需要予測システムの精度は、当時の社内検証によると「±10%程度の予測誤差に収まるレベル」に達することができました。つまり、どのメニューがどれくらい売れるのか?については、予測がつくようになったということです。「これにより、ロスは随分と解消されるはず」と思いました。
順調に進んでいるかのように思えたのですが、実際には全くもって「ダメ」だったのです。
予測値が出るのに「ダメだった」というのはどういうことなのでしょうか?
佐崎
実際の飲食現場を知って、その需要予測のプロトタイプは崩壊しました。その原因は、在庫管理によるものです。
例えば、明日カレーが100杯売れると予測できたとします。しかし、冷蔵庫に完成したカレー100杯分が入っているわけではありません。肉、玉ねぎ、にんじん、ルーと材料ごとに在庫があります。食材には個体差もあり、同じにんじんでも大きさや劣化のスピードも異なります。また、レシピは同じでも、スタッフによって調理や食材の使い方に多少の癖や傾向が出てしまう。単純にレシピに記されるグラム数や個数だけでは、在庫管理が十分にできません。
さらに、ロスにも様々な種類があります。調理の過程で出る製造ロス、ファーストインファーストアウトミスや過剰発注などによる在庫廃棄ロス、オーダーミスのような販売時ロスなど。こうしたロスのデータが、在庫管理では重要になります。それはわかっていても、変数があまりにも多く、そう簡単に計算上で管理できないということに改めて気づかされました。
私はそれまでエンジニアとしてデータと向き合ってきましたが、それだけでは解決できないとわかりました。そこで、エンジニア含めた当時の社員全員で、営業終了後に店舗へ通う日々が始まりました。
創業時の条件の中には、「未解決問題に、先端テクノロジーで挑む」という項目があります。しかし、実際に事業を本格スタートした矢先に、Goalsはテクノロジーだけでは解決できない大きな壁にぶつかりました。理論在庫と実在庫の乖離です。そこで佐崎はスタッフを連れて、調査に協力いただいた店舗へ営業終了後に出向き、食材一つひとつの在庫を記録し始めたのです。世の中が大きく変革する可能性があるのに、なぜ誰も手をつけなかったのか。未解決領域に挑む難しさや大変さを、肌で感じた瞬間だったと、当時を振り返りました。次回は、現場での気づきがHANZOの設計にどう結びついたかをお伝えします。
※1 出典:農林水産省「令和2年度 食育白書」(令和3年5月28日公表)
※2 出典:農林水産省「令和6年 農業・食料関連産業の経済計算(概算)」(令和8年3月27日公表)